
名前を覚えられないホストそう、名前すら。呼ばれない夜、忘れられる自分
「えっと……ごめん、名前なんだっけ?」
初めて指名が入るかもしれないと期待した席で、
客の女性にそう尋ねられたユウトは、笑ってごまかすしかなかった。
しかし、心の奥にははっきりとした傷が残った。
名前 覚えられないホスト――
その現実は、売れない以上に重く響く。
覚えられない名前がそれは“記号”になる世界
この世界では、名前がすべてだ。
名刺の渡し方、LINEの登録名、そして口頭での呼び方。
つまり、名前を覚えてもらうことが“最初の勝負”でもある。
けれど、ユウトの名前はなぜか記憶に残らない。
「なんか地味」「普通すぎる」「印象薄い」──
理由は明確じゃない。けれど確実に、覚えられないのだ。
朝比奈の言葉に隠された真意
「名前なんて飾りだよ、覚えるのは“感情”だ」
そう言ったのは、朝比奈だった。
「でもね、ユウト。名前を覚えてもらえないってことは、
まだ“感情を動かせてない”ってことかもしれないよ」
だからこそ、ただ笑顔を見せても足りない。
会話を盛り上げても、テンションを上げても、
“その人だけの記憶”に残らなければ、意味がない。
ゴウの存在感との対比
一方で、ゴウは名前どころか「ゴウさん」で通じる男だ。
LINEの表示名も短い一言だけで、客にすぐ検索され、すぐ指名が入る。
では、なぜ彼は覚えられるのか。
顔?トーク?それとも空気感?
ユウトはまだその答えを知らなかった。
しかし、“違いがある”ことだけは痛いほどわかっていた。
名前すら覚えられないホスト―それでも、名乗り続ける意味
ある日、リピーターがふと口にした。
「ごめんね、今日まで名前ちゃんと覚えてなかったけど、
あんた、なんか真面目で落ち着くんだよね」
その一言に、ユウトは少しだけ報われた。
**たしかに、**名前は忘れられていたかもしれない。
けれど、“存在ごと無視されていたわけじゃなかった”。
名前を呼ばれること、それは存在を肯定されること。
ユウトは今日も名乗る。「ユウトです」――何度でも。
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ついにユウトに“初めて”の指名が入る。
だが、その夜は想像していたものとは少し違っていた。
