
ホスト 源氏名 決め方 は実はシンプルだ。「まぁつまり、源氏名ってのはな、“顔”でつけるやつと、“中身”で選ぶやつがいるんだ」
深夜の牛丼屋。営業後、カズ・昇大・龍斗・の3人が並んでカウンターに座っていた。
「顔で選ぶって?」
「顔で選ぶってのは、つまり“キラ”とか“レイ”とか、いかにも系の名前。見た目に合わせるんだよ。けれども、お前ら、はそっちじゃない。お前たちはもちろん中身で勝負だろ!?」
「まぁそうなのかな。じゃあ、“中身”って?」
「要するに、願かけ、だな。“こうなりたい”って意味を込めるんだよ。名前ってのは、ホストにとって武器だからな」カズは味噌汁をすすりながら、どこか過去を思い出しているようだった。
「たとえば、俺……“カズ”ってのは、俺が昔ちょっと一緒だったやつの名前。まあそいつとは色々あったけど、そいつの名前を、あえてつけたんだ。まぁそいつの分まで、というかの色々思いがあってな」
一瞬、空気が静かになる。
その日は結果、昇大も龍斗も、何も言えなかった。
翌日、R-S店内 ― 営業前 ―
店長が勝手に盛り上がっていた。
「はいはい! 今日は源氏名を決めちゃうぞ~! いや~初々しいよねぇ~♪」
ホワイトボードに「キラ」「レイ」「刃(ジン)」と書き出す店長。
「どれがいい? え? 全部イヤ? えぇ~?(泣)」
(……全然泣いてない)
昇太も龍斗も苦笑いするしかなかった。
その後、兄弟はソファに腰かけ、静かに話し合った。
「俺さ、結局“本名”で行こうと思う」
昇太がぽつりとつぶやいた。
「“昇太”のまま?」
「うん。偽名で強くなるより、名前に自分が追いつく方がかっこいいって思った」
龍斗は小さく笑って言った。
「僕も。“龍斗”のままで行く」
「いいのか? キャッチーさもねえし、売れそうな名前でもないだろ?」
カズが尋ねた。
「……でも、僕らの名前って、二つ合わせたら“昇る龍”でしょ?」
「……“昇龍” フフフ」
「うん。子どもの頃からの僕たちだけの約束の言葉なんだから。だから――他の名前、必要ないんだ」
その夜。
営業中、ついに名乗る瞬間が来た。
「お名前は?」
「昇太です」
「龍斗です」
初めて“ホストとしての名前”を口にしたその瞬間――
二人の胸に、確かな何かが灯った。
ラストシーン
営業後、明け方の歌舞伎町。
兄弟は肩を並べてビルを出た。
消えかけたネオンの街で、龍斗がぽつりとつぶやく。
「“昇龍”ってさ、いつか名前じゃなくて、伝説にできたらいいな」
昇太はそれに答えず、にこりと微笑み、ただ前を向いて歩いた。
第1章「孤児院の約束 ―この背中を、信じてた―」 完
かつて孤児院の屋上で交わした“昇龍”という約束。
昇太と龍斗は、その名前を源氏名として背負い、ホストの世界へと足を踏み入れた。
名前は、ただの呼び名ではなく「未来への決意」。
――そして、物語は次のステージへ。
第2章「ホストの世界へ」 開始
次回予告:第6話「指名って、どうやって取るんですか?」
源氏名ではなく、“自分”で勝負する兄弟。
待っていたのは、売れない現実、厳しい営業、そして結果を求められる日々。
先輩ホストたちから学ぶ“戦略”と“魅力”――
ホストという職業のリアルが、彼らを試し始める。