
新人ホストが初出勤する、ただそれだけの夜。しかし、これはこれから、“夜の顔”を手に入れる男と、“夜の顔”を手に入れた男たちの、ある記録である。
誰もが見ているのは、表の顔だけ。
だけどその笑顔の裏には、必ず理由がある。
「……この扉の向こうが、全部変わる場所なんだよ」
自分に言い聞かせるように、ハルキは路地裏に立ち尽くしていた。
歌舞伎町のネオンがまぶしく反射する中、彼が見上げたのは小さな雑居ビルの三階。そこには、“CLUB NUMBERS(ナンバーズ)”とだけ記された控えめな看板があった。
何度も地図アプリを見返しながら、ハルキは喉の奥に溜まった不安を飲み込もうとしていた。けれど、それでも心臓の高鳴りは止まらない。
「初日で遅刻ってわけにもいかないし……でも、今ならまだ帰れる……」
しかし、その一歩を踏み出した瞬間、もう後戻りはできなかった。
新人ホスト初出勤-扉の先は“異世界”だった
ドアを開けると、思っていたよりも狭い店内が広がっていた。
けれど、空気は確かに違った。シャンデリアの光が柔らかく反射し、甘く濃厚な香水とアルコールの匂いが漂う。その空間だけが、まるで別世界だった。
「おーい、新人来たぞー!」
奥から元気な声が響く。すぐに現れたのは、やや茶髪で軽い印象の男。ラフな白シャツ姿で、ハルキの肩をポンと叩く。
「ハルキくんだよね? 今日からって聞いてたよ。まぁ、緊張するよな~」
「は、はい……よろしくお願いします」
するとその瞬間、さらに奥のソファから一人の男が立ち上がった。
「ナオヤさーん、今日の新人、来ましたよ」
黒のスーツを完璧に着こなし、流した黒髪。真っ直ぐな姿勢でゆっくりと歩み寄ってくるその男からは、言葉にできない威圧感があった。
「……新人か」
男は手をポケットに入れたまま、一瞥をくれただけだった。
だが、その立ち振る舞いと言葉遣いから、“ただ者ではない”という空気がはっきりと伝わってくる。
その直後、隣にいた店長がぽつりとつぶやいた。
「……あれが、この店のNo.1、ナオヤだ」
“名前”にも“笑顔”にも値段がつく-新人ホストの衝撃 初出勤
「ここではな、“笑顔”も“名前”も、全部に値札がついてるだ」
その言葉の意味は、すぐには理解できなかった。だが、ナオヤの眼差しは真剣そのものだった。
「あの、俺……ちゃんとやれるか不安で……」
「不安なのは当たり前。でもここは、“やるやつ”しか残れない」
彼の声は冷たくもあたたかく、そしてどこか、過去を知るような響きを持っていた。
ハルキはその背中を、思わず見つめた。
こうして、新人ホスト・ハルキの“裏側”の物語が始まった。
指名、売上、嫉妬、虚構――
何を売り、何を守るのか。
この夜の世界で、彼が選ぶ“本当の自分”とは何なのか。
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