「名前、なんて言ったっけ」第4話

ホスト 初出勤 体験談

ホスト 初出勤 体験談と言えるかな?「おはようございまーす……って、まだ18時前じゃん」店に入るなり、先に来ていたホストが鼻で笑った。昇大と龍斗は、昨日面接を受けたホストクラブ【R-S】に、本日から体験入店として出勤することになった。


「名前なんだっけ?」

「えっと……昇大(しょうた)です。弟が龍斗(りゅうと)」

「あー、はいはい、よろしく。……なんだっけ?」

軽くあしらわれ、誰も真剣に名前を覚えてくれない。
まるで空気のように扱われる自分たちに、昇大は苦笑いしかできなかった。


店長1の“マニュアル風朝礼” 

店長1がホワイトボードにマジックで書き出した。

【新人教育3ヶ条】
1)水をこぼすな
2)自己紹介で噛むな
3)なんとかなると思うな

「……以上です。覚えましたね? じゃ、がんばって☆」

(それ、教育って言えるのか?)

昇大が内心でツッコむ横で、龍斗は無表情のまま「は?」と呟いていた。


営業開始

19時を回ると、照明が変わり、店の空気が一変する。
指名のあるホストたちは次々に席へと消えていった。

兄弟には、フリーも来ない。名札すら渡されなかった。

「……なんか、いらない家具になった気分だな」

昇大のつぶやきに、龍斗が静かにうなずく。


そこに現れたのが、面接で一触即発になったカズだった。
金髪、スタイルは派手、だがどこか目の奥に“疲れ”が見えた。

「おい、新人。名前忘れたけど、これ運んどいて」

昇大が一礼してグラスを運ぶと、カズは龍斗に目を向ける。

「……昨日の態度、なかなかだったな」

「お世辞ですか?」

「いや、皮肉。……けど、ちょっとだけ思い出した。俺も昔、そういう目してた」

その一言に、龍斗のまなざしが少し揺れた。

(……カズも、もしかして――)


営業後

結局、兄弟は1卓にもつけなかった。
ソファに座ったまま、ただ時間だけが過ぎていった。

そこに、カズがペットボトルを片手に近づいてきた。

「お前ら、まっすぐ帰んなよ。客に覚えられねえ奴は、まず“人間”として忘れられる」

「……すみません」

「別に怒ってねぇよ。俺も昔、そうだったからな」

彼の手首には、うっすらと消えかけた傷痕。
龍斗は何も言わなかった。ただ、目をそらさなかった。


「飯でも行くか。どうせ初任給まで時間あんだろ? 名前、どうやったら覚えられるか、教えてやるよ」

昇大と龍斗は顔を見合わせ、そして小さくうなずいた。


次回予告(第5話)

第5話「ホストの“名前”は、自分で作る」
ようやく一歩を踏み出した昇大と龍斗。
カズとの“飯”から始まるのは、ホストという生き方の初歩。
売れないホストに必要なものとは? そして、二人の“源氏名”がついに決まる――!

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