
ホスト初指名の喜び――その裏に潜む“選ばれる痛み”
ユウトは、その夜“名札”を付けられた。
ついに、はじめての指名が入ったのだ。
それは、夜の世界で正式に“価値”を与えられる瞬間でもある。つまり、選ばれた証だ。
「本指名、ユウトくんで」
その言葉を聞いた時、胸の奥が熱くなった。しかし、喜びだけでは終わらない。
隣では、ゴウが黙ってグラスを傾けていた。
指名の数だけ、笑顔の裏に“代償”があると知っている顔だった。だからこそ、彼は多くを語らなかったのだ。
ホストの初指名は、希望か、それとも試練か
朝比奈は、ふとしたタイミングでこう言った。
「指名ってのは、病院で言えば“票”みたいなもんだよ。つまり、上に行くには必要なやつ」
それは、まさに『白い巨塔』の教授選と同じ構造だ。
誰に付くか、誰を選ぶか――そして、その選択には必ず意味がある。
ホストクラブにおける“指名”は、選ばれる者だけでなく、選ぶ者にも責任がある。だから、軽い気持ちでは済まされない。
それでも、ユウトはまだその重みを知らない。
ただ素直に、嬉しかったのだ。
だが、嬉しいのに、なぜか笑顔がぎこちなくなる。
「この笑顔にも、値段がついたのか」――そう思った瞬間、胸が冷えた。
喜びと孤独が同時に訪れる夜
「これで、お前も売れ筋だな」
そう囁いてきたのは、同じ新人だったカナメ。
だがその言葉には、祝福よりも“牽制”の色が混ざっていた。
派閥ごとに客を分け合い、数字で殴り合う構造。
一度、指名をもらえば──そこからは数字が人格を定義する。
まるで、教授になった瞬間に人格が問われるように。
初指名は、喜びと同時に孤独をもたらす。
誰にも頼れないまま、結果だけが突きつけられるのだ。
朝比奈の言葉が突き刺さる
「初指名で浮かれてるなら、まだ甘い」
朝比奈の言葉は冷たかった。
だが、その目はどこか優しかった。
「この世界で生きるってことは、選ばれ続けるってことだ。1回じゃなく、何度も」
まるで、教授になった後も評価を問われ続ける財前のように。
ユウトは、その意味を少しだけ理解しはじめていた。
