黒の城、静かに灯る夜 第1話

黒い巨塔 ホスト小説1-1

黒い巨塔 ホスト小説 第1話 闇に浮かぶ“黒の城”――その扉の向こうには、、、

なぜか、この夜だけは、やけに静かだったのか。
歌舞伎町の片隅、ひときわ高くそびえるホストクラブ〈黒の城〉。
それは、業界内でも拡張スピードと売上至上主義で知られるホストグループ〈黒速会〉の旗艦店だった。

そう、業界の頂点に最も近い場所である。いつもなら賑やかなはずの入口前。しかし、この日は違った。なぜなら、そこに立っていたのが、神崎剛志――源氏名ゴウだったからだ。

黒速会の中でも“伝説の売上を持つ男”と称される男。だからこそ、彼の出勤には誰もが息を呑む。だが、彼はその日、少しだけ、立ち止まった。理由は明かさず、ただ店を見上げていた。


なぜ、“No.1”であり続けるのか?

一方で、同じ店内には、別の男がいた。朝比奈亮――源氏名リョウ。かつてゴウと並び称された存在であり、今は新人ホストの教育係を担っている。
なぜ、彼はナンバーから退いたのか?それは、売上至上主義に疲れたからだった。しかし、それだけではなかった。彼の中には、いまでもくすぶる「理想の接客」があった。

「売れることが正義なら、何のために接客してるんですか?」

新人のひとりが放った何気ない一言。それが、この夜、店内の空気を変えた。誰もがその場に居合わせたわけではない。けれど、なぜかその言葉は、伝播するように広がっていった。


“売れる”だけでは、頂点に立てない時代

ゴウはその言葉を直接聞いてはいなかった。にもかかわらず、彼は察していた。だからこそ、入口で立ち止まったのだ。自分の背中に、何かが刺さるような感覚。それが、朝比奈からの“問いかけ”であると悟ったからだ。

しかも、今夜は黒速会本部から、ある幹部が視察に来ると聞いていた。
「統括昇格」が現実味を帯びている以上、彼は失敗できない。完璧な営業をしなくてはならない。だが、それは“理想”を捨てることと、どこかで繋がっていた。


だからこそ、この夜は始まりだった

結果的に、その夜の営業は成功した。新人ホストも指名を取り、売上も上がった。だが、朝比奈は静かに、ある事実に気づいていた。

――このままでは、きっと誰かが壊れる。

そう感じた彼の中で、ひとつの決意が芽生える。
それは、ゴウに対して“正面から向き合う”という選択だった。
たとえそれが、黒速会の中で自分の立場を危うくすることだとしても。


黒い巨塔 ホスト小説 夜の世界にそびえる“黒い巨塔”。その第一歩が、この夜、静かに踏み出された――。

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