
ホスト 売掛 客に向き合う夜
「電話、かけろよ。」
その一言が背後から放たれた瞬間、国見の指先がわずかに震えた。
というのも、その声には感情の起伏が一切なく、ただ冷たく命令を突きつけるような圧があったからだ。
さらに視線を向ければ、事務所の奥――帳簿が広げられたテーブルの前に立つ店長が見える。
その目は、どこまでも静かで、とはいえ容赦はなかった。
つまり、そこには「情」など入り込む余地はない。
むしろ、業務の一環として“処理”を促すような、そんな無慈悲さだけが漂っていた。
売掛がある客と三週間連絡が取れないその時担当ホストは?
「この客、三週間連絡ない。――担当としての責任、どう取る?」
その問いかけには、逃げ道がなかった。
というのも、店長の視線は逸らしたくなるほど真っ直ぐで、だからこそ国見の胸を射抜いたのだ。
売掛――つまり、指名した客がツケで支払い、後日払う約束の金である。
しかし、期限が過ぎれば話は別だ。
その瞬間から、それは“未収金”となり、結果としてホスト本人にのしかかる。
たとえ客が失踪しても、また何らかの事情で支払い不能となっても、だ。
したがって、現実的には“誰を指名させたか”が、そのままホスト自身のリスクになる。
「……わかってます」
声に出すのが精一杯だった。
震える手でスマホを取り出し、画面を開く。
そこには、笑顔で写真に写る彼女のLINEアイコンがあった。
「あの人から、夢をもらった。」
――かつて、昇太がそう語った言葉が、不意に胸に浮かんだ。
それは希望だった。だからこそ、あのときの俺は前を向けたのだ。だが今は違う。
というのも、今の俺にできるのは、夢を与えることではない。
むしろ、夢の残骸に値札をつけて、現実を請求することだけだ。つまり、それが“売掛”というシステムの冷たさであり、
そして、それでも立ち続けるしかないホストの現実だった。
裏社会もまた、ホスト 売掛 客に“処理”を始めていた
一方その頃、裏社会の一角――東條は渡会と共に、あるビルの非常階段を静かに上がっていた。
というのも、今夜の目的は“制裁”ではなく、“確認”だったからだ。
「この女、売掛400。飛んでる。……どうすんだ?」
渡会が口元をわずかに歪め、低く呟く。
“400”――すなわち40万円。ホストクラブで夜を積み重ねた末に、約束されたはずの金は、煙のように消えた。
「処理は静かに。今回は、見せしめじゃない。」
東條がそう答えたとき、その声は淡々としていた。
しかし、その横顔はどこか遠くを見ていた。
つまり、目の前の“案件”に心を動かしていたのではなく、
もっと別の何か――あるいは、過去――を見つめているようにも感じられた。
「病院はどこだ……」
昔、助けられなかった人の命を思い出す。
あの頃は、まだ何かを“救える”と信じていた。
今は、ただ“秩序”を守る側にいるだけだ。
階段の先に見えたのは、古びた扉。
東條はノックせずに、その前で立ち止まった。
売掛 客との“つながり”が試されるホスト
国見は、結局電話をかけた。
呼び出し音の向こうに、かつて何度も自分の名前を呼んでくれた声がある気がした。
「……出ろよ」
画面を見つめながら、心の中で叫ぶ。
……だが、応答はなかった。
静かな事務所に、ため息だけが響く。
「追うかどうかは、任せる」
店長はそう言って背を向けた。
“売上”ではなく“回収”に追われる夜。
夢を売るはずのホストが、“現実”に引き戻される一瞬だった。
そしてその頃、東條もまた、無言のまま古びたドアを開けていた。
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