
ホストが売れなくても続ける理由 “ゼロ”の夜を越えて
店のドアを開けると、いつもの夜が始まる。
だが今日もまた、名刺は減らず、指名はゼロだった。
「はぁ……」
ため息をつきながら、龍斗はロッカーに腰を下ろす。
横では昇太がタオルで額を拭いていた。
「今日も……何もなかったな」
「でも、何もなかったけど、今日も来た。それだけでも、意味あるって思うよ」
龍斗の声は、ほんの少しだけ震えていた。
ホストが売れなくても続ける理由──なぜ、出勤し続けるのか?
「なんで俺ら、こんなに売れないのに……まだ続けてんだろうな」
龍斗が笑うように言った。
それに対し、昇太は静かに口を開く。
「……この世界、続けるだけでも難しいんだよな。でも、ここにいれば、いつか何かが変わる気がして」
確かに、何度も辞めようと思った。
だが、それでも“辞めない理由”はあった。
それは、隣に兄弟がいること。そして、あの屋上で交わした約束を裏切りたくないという気持ちだった。
売れない日々は、気づく時間でもある
ホストが売れなくても続ける理由は、“反省”と“観察”ができるからだ。
先輩たちの接客を観ていると、そこには小さな工夫と習慣があった。
名刺の渡し方、声のトーン、目線の合わせ方。
どれも当たり前のようでいて、自分にはできていなかった。
「売れない日々にも、学べることはある」
昇太は、そう言い聞かせるようにメモ帳を取り出した。
それでも続ける――その理由は、未来にある
さらに、店長の一言が、龍斗の胸に残っていた。
「続けられるやつが、最後に残るんだよ」
たしかに、結果が出ない日が続くと、心が折れそうになる。
しかし、今日辞めてしまったら、明日変われる可能性も捨てることになる。
「だったら、もう少しだけやってみるよ」
龍斗が笑った。
「俺たちは、昇龍だろ?」
「売れないからって、俺らが“意味ない”なんて、誰にも言わせねぇ」
昇太がつぶやいた。
「僕たちは、売れるためにやってるけど、続ける意味は売上だけじゃないよね」
「……“昇龍”って名前、そういう意味も含めてのものだろ?」
龍斗が頷いた。
名前に恥じないように、もう一日だけ頑張ってみよう。
そう思えたその夜、兄弟はまた、笑って帰路についた。
