
常に完璧な笑顔、NO1ホストのその笑顔の裏側。
「しかし、ナオヤさん、さすがだよね。あの席、空気が違った。」
ハルキがグラスを拭きながらつぶやくと、次に横にいた先輩ホストがうなずいた。
「まあ、あのレベルになると“営業”ってより“芸術”だよな。」
さらに、ナオヤが担当するテーブルからは、軽やかな笑い声が絶えず響いていた。
もちろん姫(女性客)のひとりは、目を潤ませながら彼を見つめている。
けれど、ナオヤの笑顔は“その視線を受け止める”ことに慣れていた。
まるで、感情ごと美しく整えて返すように――どこまでも、完璧だった。
「ありがとうございます。今日も、お会いできて嬉しかったです。」
深く頭を下げるナオヤの横顔を見たその瞬間、思わず、ハルキは一瞬だけ目を奪われた。
そう、そこに、“わずかな空白”があった気がした。
ホストの笑顔は “売れる”ためじゃない。その裏側は、、、
そして、営業が終わり、控え室ではナンバー表を眺めながら談笑する声が飛び交う。
「今月もナオヤさんトップかー。あの人、笑顔で数字作ってるもんな。」
レンが缶コーヒーを開けながら言った。
笑顔で数字、という言葉がハルキの頭に引っかかった。
(あの笑顔は……“売れるため”の顔じゃない気がした。)
ナオヤの笑顔には、意図が見えなかった。
誰かに喜んでもらいたい、という“接客の熱”とも違う。
どこか、完全に整った仮面のような、冷たさがある。
「……ナオヤさん、いつも同じ笑顔ですよね。」
思わず、ハルキがぼそりと呟くと、レンは少しだけ眉を動かした。
「ま、あの人は“崩れない”からな。俺らとは、違うんだよ。」
その言葉に含まれるものが、優しさなのか、距離なのか。
ハルキにはまだ、判別がつかなかった。
ただひとつわかったのは、
――“笑顔の値段”は、安くない。
それを崩さないために、結果としてナオヤは何かを犠牲にしている。
そんな気がしてならなかった。
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