“笑顔”の値段 第3話

ホスト 笑顔 裏側

常に完璧な笑顔、NO1ホストのその笑顔の裏側。

「しかし、ナオヤさん、さすがだよね。あの席、空気が違った。」

ハルキがグラスを拭きながらつぶやくと、次に横にいた先輩ホストがうなずいた。

「まあ、あのレベルになると“営業”ってより“芸術”だよな。」

さらに、ナオヤが担当するテーブルからは、軽やかな笑い声が絶えず響いていた。
もちろん姫(女性客)のひとりは、目を潤ませながら彼を見つめている。
けれど、ナオヤの笑顔は“その視線を受け止める”ことに慣れていた。
まるで、感情ごと美しく整えて返すように――どこまでも、完璧だった。

「ありがとうございます。今日も、お会いできて嬉しかったです。」

深く頭を下げるナオヤの横顔を見たその瞬間、思わず、ハルキは一瞬だけ目を奪われた。

そう、そこに、“わずかな空白”があった気がした。


ホストの笑顔は “売れる”ためじゃない。その裏側は、、、


そして、営業が終わり、控え室ではナンバー表を眺めながら談笑する声が飛び交う。

「今月もナオヤさんトップかー。あの人、笑顔で数字作ってるもんな。」

レンが缶コーヒーを開けながら言った。
笑顔で数字、という言葉がハルキの頭に引っかかった。

(あの笑顔は……“売れるため”の顔じゃない気がした。)

ナオヤの笑顔には、意図が見えなかった。
誰かに喜んでもらいたい、という“接客の熱”とも違う。
どこか、完全に整った仮面のような、冷たさがある。

「……ナオヤさん、いつも同じ笑顔ですよね。」

ハルキがぼそりと呟くと、レンは少しだけ眉を動かした。

「ま、あの人は“崩れない”からな。俺らとは、違うんだよ。」

その言葉に含まれるものが、優しさなのか、距離なのか。
ハルキにはまだ、判別がつかなかった。

ただひとつわかったのは、
――“笑顔の値段”は、安くない。

それを崩さないために、ナオヤは何かを犠牲にしている。
そんな気がしてならなかった。

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