
「レンさーん!今日もお願いしまーす!」グラスを掲げた客の声に、レンは迷いなく笑顔を返す。
カウンター奥からボトルを手に取り、軽やかに席へ滑り込む。「今日のネイル、ピンク?前より似合ってる。」何気ないひと言に、女性はぱっと花が咲いたような表情を浮かべた。このテンポ、このノリ、この笑顔。――ホストという仮面を被って演じる日々、苦悩?にはもう何年も慣れていた。
そう、誰にでも合わせられる。
そして、どんな会話も盛り上げられる。
しかし、そのたびに“自分”が薄くなっていくような気がしていた。
苦悩を隠すホストの“仮面”と笑顔
ふと気づけば、営業終了間際。控え室で汗を拭いながら、レンは深く息を吐いた。
「また今月も、ナンバー2、か。」
誰に言うでもなく、その言葉に、空気だけが返事をした。
もちろんナオヤには届かない。とはいえ、やはり、届きたくないわけでもない。
しかし、越えようと思うたびに、けっきょく自分の“器の形”が見えてしまう。
「……笑ってりゃ、バレねぇけどな。」
思わずそう呟いた瞬間、ふと気づけば、ドアの外からハルキの声が聞こえた。
「レンさん、今日はありがとうございました!」
「おう、明日も頼むな。」
とくに振り返ることはなかった。
けれどレンは、自分が**“苦悩を隠すホストの仮面”**のまま立っていることに、ふと気づいた。
そして、誰にも悟られないように、
仮面のままで、今夜も笑っていた。
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