「月末締めの夜に」第5話

ホスト ナンバー表 緊張感

月末最後の営業が終わったホストの店内には、妙な静けさと、緊張感があった。テーブルが片付けられたフロアの壁に、ナンバー表が貼り出されている。ホストたちの名前と、その横に並ぶ数字。指名本数、同伴数、売上額。

その一枚の紙を、誰もがちらりと見ては、黙って通り過ぎていく。

ハルキはホストのナンバー表の前で足を止めた。
もちろん自分の名前はそこにはない。だが緊張感がないわけではない。
そう、貼り出された数字の列には、この店の空気のすべてが詰まっているように思えたからだ。

“1位”の重みと、“2位”の矛盾 – ホストのナンバー表

「今月もナオヤか。さすがだな。」

誰かの声が後ろで聞こえた。
ナオヤは何も言わず、貼り出された紙を一瞥すると、そのまま奥へ消えていった。

(当然、という空気。誰も驚かない。でも――)

レンはその背中を見つめながら、口元に缶コーヒーを運んだ。

数字では負けている。
でも、自分の笑顔の方が、客の心を近づけている自信はあった。

だからこそ、その「1」の数字が、ただの記号に見えない。
むしろ、いつも目の前に垂れ下がる天井のように、重くのしかかる。

名もなき背中たち

ハルキがナンバー表から目を離すと、近くに新人らしきホストがもう一人立っていた。
その肩が、わずかに震えていた。

(名前が、ない。)

その現実は、思ったよりも冷たかった。
ナンバーに入らなければ、“存在しない”のと同じ。

しかし同時に、そこに名を刻むホストたちにもまた、誰にも言えない“重さ”があるのだと、ハルキは少しずつ理解し始めていた。

貼り出された紙の前を、ひとり、またひとりと通り過ぎていく。

でもその背中の数だけ、違う物語がある。
それを誰も語らず、ただ今日も、“真実の数字”は並んでいた。

章末の言葉

笑顔の奥にあるものは、売上か、それとも理由か。
選ばれることに慣れた男たちも、選ばれない夜があった。
この第1章は、彼らが“ホストである前に、人間である”ということを、静かに語っていた。
物語は、まだほんの入口――。
そして次の章では、“彼らの過去”が、ネオンの裏から姿を現し始める。

――なぜ彼らがこの世界に辿り着いたのか。
“笑顔の値札”の奥に眠る、それぞれの理由が、次章で静かに明かされていく。

名前のない夜たちへ

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