
ホストのメルアドは、たいてい“素直”だ。
そう、源氏名に誕生日の数字が並ぶ、それだけで十分わかってしまう。
「本当に嘘じゃないからね。ちゃんと俺が電話したら出るんだよ」
そう言って、彼は少し申し訳なさそうに笑った。
こちらの気持ちに、少しでも気づいているのかもしれない。
だからこそ、あえて“信じてほしい”という視線を送ってくるのだろう。
「うん、わかった」
私はそう返しながらも、正直に言えば胸の奥には引っかかるものが残っていた。
とはいえ、その気持ちを言葉にはできなかった。
「ちょっと待ってて」
「今、連絡先送るから。すぐだからさ」
彼はそう言いながらスマホを取り出し、
そして、真剣な顔で操作を始めた。カウンター席で並んで座る私たちの間には、わずかだが沈黙が漂う。
その沈黙が、逆に心をざわつかせる。
たとえば、本気で連絡を取りたいなら、もっと別の手段もあったのでは?
あるいは――本当は営業の一環なのでは?
そんな思考が、静かに脳裏をよぎっていく。
メールアドレスの正体
「はい、これ」
彼がスマホを差し出してくる。
画面には、見知らぬメールアドレスが表示されていた。
けれど、私はすぐに気づいてしまった。
源氏名に、誕生日らしき数字。
まさに、典型的な“営業用”のメアドだった。
というのも、ホストの世界では営業用とプライベート用で連絡先を使い分けるのが当たり前。
特にこの形式は、営業用の定番中の定番なのだ。
つまり、それは私だけに与えられたものではない。
もしかすると、今夜も何人かに同じメアドを送っているのかもしれない。
そう思うと、少しだけ胸が冷たくなる。
ホストのメルアドは“素直”
「どうかした?」
スマホ越しに彼が私の顔をのぞき込む。
その目は、まるで何も知らないかのように澄んでいた。
「ううん、なんでもないよ」
そう答えながら、心の中でそっとつぶやいた。
(完全に営業用のメアドじゃん……)
たしかに、彼は嘘をついてはいない。
だけど、その素直すぎるメアドが、逆に私の心を遠ざけていく。
本当に、電話が鳴る日が来るのだろうか?
あるいは、これは“夢を見せる”ためだけのツールなのか。
けれど、こうして気になってしまう時点で――
私はすでに、一歩踏み込んでしまっているのだろう。
▽このエピソードの原作漫画はこちら!
ホスト漫画ドットコム第11話「ホストのメルアドは素直」
第12話へ続く