ホストのメルアドは素直 第11話

ホストのメルアドは素直

ホストのメルアドは、たいてい“素直”だ。
そう、源氏名に誕生日の数字が並ぶ、それだけで十分わかってしまう。

本当に嘘じゃないからね。ちゃんと俺が電話したら出るんだよ

そう言って、彼は少し申し訳なさそうに笑った。
こちらの気持ちに、少しでも気づいているのかもしれない。
だからこそ、あえて“信じてほしい”という視線を送ってくるのだろう。

「うん、わかった」

私はそう返しながらも、正直に言えば胸の奥には引っかかるものが残っていた。
とはいえ、その気持ちを言葉にはできなかった。


「ちょっと待ってて」
「今、連絡先送るから。すぐだからさ」

彼はそう言いながらスマホを取り出し、
そして、真剣な顔で操作を始めた。カウンター席で並んで座る私たちの間には、わずかだが沈黙が漂う。

その沈黙が、逆に心をざわつかせる。

たとえば、本気で連絡を取りたいなら、もっと別の手段もあったのでは?
あるいは――本当は営業の一環なのでは?
そんな思考が、静かに脳裏をよぎっていく。


メールアドレスの正体

「はい、これ」

彼がスマホを差し出してくる。
画面には、見知らぬメールアドレスが表示されていた。

けれど、私はすぐに気づいてしまった。

源氏名に、誕生日らしき数字。
まさに、典型的な“営業用”のメアドだった。

というのも、ホストの世界では営業用とプライベート用で連絡先を使い分けるのが当たり前。
特にこの形式は、営業用の定番中の定番なのだ。

つまり、それは私だけに与えられたものではない。

もしかすると、今夜も何人かに同じメアドを送っているのかもしれない。
そう思うと、少しだけ胸が冷たくなる。


ホストのメルアドは“素直”

「どうかした?」

スマホ越しに彼が私の顔をのぞき込む。
その目は、まるで何も知らないかのように澄んでいた。

「ううん、なんでもないよ」

そう答えながら、心の中でそっとつぶやいた。

(完全に営業用のメアドじゃん……)

たしかに、彼は嘘をついてはいない。
だけど、その素直すぎるメアドが、逆に私の心を遠ざけていく。

本当に、電話が鳴る日が来るのだろうか?
あるいは、これは“夢を見せる”ためだけのツールなのか。

けれど、こうして気になってしまう時点で――
私はすでに、一歩踏み込んでしまっているのだろう。


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ホスト漫画ドットコム第11話「ホストのメルアドは素直


第12話へ続く


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