
ホストの髪型 ヘアセット、されど未知の世界
「ヘアセットは、どんな感じにしますか?」
営業前、メイクルームの一角でそう尋ねられた瞬間、ジンの思考は一瞬止まった。鏡越しにメイクさんの視線を感じながらも、彼は動けずにいた。
なぜなら──彼には、そもそも「ホストっぽい髪型」の定義が分からなかったからだ。
(いや、だから俺に聞いても……分からないってば!)
実際のところ、ホストとして働くのは今日が初日。まだ右も左も分からない状態で、髪型のイメージすら持ち合わせていないのは当然だった。
それでも、何も言わないわけにはいかない。だからこそ、ジンは勇気を振り絞って答えた。
「ほっ、ホストっぽい髪型で……お願いします」
多少しどろもどろではあったが、どうにか伝えられた。それを聞いたメイクさんは、すかさず笑顔で応じた。
「了解!任せてください!」
こうしてジンの“ホスト髪型”が、今まさに形作られようとしていた──。
「ホストっぽい髪型」ってどんなの?
「片方だけ前髪多めに分けて、サイドは外ハネかウェーブ!トップは盛って“筋盛り”にしておくね!」
そう言われても──ジンには、まったくイメージが湧かない。なぜなら、それまで「筋盛り」なんて言葉を聞いたことすらなかったからだ。
(え……なにそれ……?)
耳に飛び込んでくる専門用語の数々に、ジンの頭は混乱するばかりだった。けれども、恥ずかしさも手伝ってか、思わず口をついて出た言葉は──
「……それ、どんな髪型?……すじもり?」
自分でも分からないまま、ジンはパニック寸前。だが、逃げることはできない。なぜなら、すでにメイクさんは準備万端。アイロンとスプレーを構えて、彼の返答を待っていた。
だからこそ──ジンは震える声で、なんとか言葉を発した。
「お、おねがいします……」
こうして、初めての“ホスト髪型”が静かにスタートした。すべては未知数。けれど、それこそが体験入店の醍醐味なのかもしれない。
筋盛り・外ハネ・ウェーブ──今どきホストの髪型事情
ホスト髪型の世界は実に多彩だ。かつては、金髪ロングでライオンのようなシルエットが主流だったが、今では黒髪のナチュラル系も一般的。ショートスタイルのホストも増えており、外見はより「日常に馴染むオシャレさ」を重視する傾向にある。
ただし、“ビジュアル系ホスト”となると話は別。ピンクや白金の派手髪、長髪にメッシュ、筋盛りの極致といったインパクト重視のスタイルが多く、街で見かけたら一発でそれと分かるほど。
「太ったビジュアル系ホストは見たことない」と言われるのも、派手な髪型に合うよう全身を仕上げているからだろう。
ヘアセットはホストの戦闘準備
ホストにとって、実は髪型は単なるオシャレではない。むしろそれは営業前の“戦闘準備”に近い。髪を整えることによって、自然と気持ちが切り替わり、まさに舞台に立つ覚悟が生まれる。
筋盛りとは、スプレーで髪を固めたうえで、さらに櫛を使って筋状に流れを作るスタイル。結果として、髪の束感が際立ち、いっきに「ホストらしさ」が完成する。セットの出来栄えが、その日のテンションや売上に少なからず影響を与えることもある。
ジンのように、ホスト初心者のうちは、当然ながらどこまでセットするべきかが分からず、つい戸惑ってしまう。しかしながら、毎日メイクさんと向き合ううちに、いつの間にか自分の理想を追求したくなる。つまり、こだわりが芽生えるのは時間の問題なのだ。
ミストとじじホスの秘密
ちなみに、長時間営業を乗り切るには“崩れないセット”も重要。そこで活躍するのがミストだ。
化粧水を霧状にして噴霧するミストは、乾燥しやすいホストクラブ内でも潤いを保ち、セット崩れを防いでくれる。
「じじホス」と呼ばれるベテランホストたちは、このあたりの対策が抜かりない。年齢を重ねた分、髪や肌への配慮も深く、派手さよりも清潔感と落ち着きが魅力。
若手にとっては、見た目だけでなく“余裕ある立ち振る舞い”も学ぶ対象なのだ。
「ホスト髪型」は武器であり、名刺である
こうして、ジンの“ホストデビュー髪型”は完成へと向かっていく。
筋盛りされた前髪、ふんわり外ハネのサイド、絶妙なバランスのトップ──仕上がった自分の姿を見て、思わず小さくつぶやいた。
「……ホストっぽいかも」
ホストにとって髪型は、第一印象を決める名刺のようなもの。今日もまた、鏡の前でその戦闘準備は静かに行われている。
この話の原作4コマはホスト漫画ドットコム ホストな日々
「第16話 ホストクラブのロッカールーム」 に掲載中です!
