
ホストクラブ面接実態 夜の歌舞伎町、午後6時。ネオンが本格的に灯り始めた街に、兄弟は立っていた。
「……このビルだな、“R-S”ってのは」
昇大が見上げた先には、黒地に金文字の控えめな看板。
煌びやかな通りの中にあって、やや地味なビルの4階にその店はあった。
「スーツなんて、借り物だしな……大丈夫か?」
「気にすんな。大事なのは中身、って言うだろ」
龍斗が言うとおり、二人の格好は“完璧なホスト志望”とは言いがたい。
だが、それ以上に――覚悟だけは、服よりも確かだった。
「コンコン」とドアを叩くと、意外にも若い声が返ってきた。
「あ、はいはい。面接ですねー、どーぞー」
エレベーターを昇ると、そこにはまばゆい照明とソファ、
香水とアルコールの匂いが混じる、いかにも“夜の店”の空気が漂っていた。
待合スペースに通されてすぐ、もう一人の男が現れた。
金髪でピアスをつけた痩せ型の青年――こちらも明らかに面接希望者の一人だ。
「ふーん、他にも来てたんだ?」
昇大たちを見下ろすように笑ったその男は、ポケットに手を突っ込みながら続ける。
「俺? 昨日、ちょっと顔出して、今日また面接って感じ。今は体験中ってとこ」
金髪の男――カズは足を組みながら座り、昇大と龍斗を上から下まであからさまに見て、鼻で笑った。
「なんか、学生のバイトか? 夜の世界なめてね?」
「お前こそ、その金髪、キメすぎて逆に売れねえだろ」
龍斗が低く、淡々と返した。空気がピンと張り詰める。
「……やんのか?」
「はいはーい、喧嘩なら指名取り合ってからにしてくださーい!」
間に割って入ってきたのは、スーツの上からカーディガンを羽織ったような小柄な男――R-S店長だった。
「もう〜、若い子ってすーぐピリつくよね!はい、3人とも中入って中!」
ホストクラブ面接実態 そこは営業用のVIPルーム
面接室というよりは、営業用のVIPルーム。
ソファに3人が並んで座り、店長は真ん中のカウンター席に立っていた。
「じゃ、順番に聞くけど――なんでホストになりたいの?」
昇大は一瞬言葉に詰まったが、目をそらさずに言った。
「金が欲しい。でも……それだけじゃなくて、自分を変えたい」
「ふーん。で、そっちの弟くんは?」
「……兄貴の背中を押すため。あと、俺の目標もある」
「かっこいいこと言うじゃん」
「で、そこのキミ。金髪くんは?」
「俺? 女にモテたい。それだけ。指名取る自信あるし」
「おお〜わかりやすい!でもね〜……」
店長が急に真顔になった。
「“口”じゃ誰でも売れるって言うんだよ。問題は“続けられるか”どうか」
沈黙。
金髪は鼻で笑い、昇大と龍斗は黙ったまま拳を握った。
「ま、今日はこれでOK。結果は後日連絡するから、ちゃんと携帯出といてね〜」
店長が手を振るように言った。
店を出た後、階段を降りながら昇大が言った。
「……やっぱ怖えな、ホストの世界」
「でも、入らなきゃ見えねえ景色もあるだろ」
龍斗のその一言に、昇大は黙ってうなずいた。