「面接って、笑われる場所だっけ?」第3話

ホストクラブ面接実態

ホストクラブ面接実態 夜の歌舞伎町、午後6時。ネオンが本格的に灯り始めた街に、兄弟は立っていた。

「……このビルだな、“R-S”ってのは」

昇大が見上げた先には、黒地に金文字の控えめな看板。
煌びやかな通りの中にあって、やや地味なビルの4階にその店はあった。

「スーツなんて、借り物だしな……大丈夫か?」

「気にすんな。大事なのは中身、って言うだろ」

龍斗が言うとおり、二人の格好は“完璧なホスト志望”とは言いがたい。
だが、それ以上に――覚悟だけは、服よりも確かだった。


「コンコン」とドアを叩くと、意外にも若い声が返ってきた。

「あ、はいはい。面接ですねー、どーぞー」

エレベーターを昇ると、そこにはまばゆい照明とソファ、
香水とアルコールの匂いが混じる、いかにも“夜の店”の空気が漂っていた。


待合スペースに通されてすぐ、もう一人の男が現れた。
金髪でピアスをつけた痩せ型の青年――こちらも明らかに面接希望者の一人だ。

「ふーん、他にも来てたんだ?」

昇大たちを見下ろすように笑ったその男は、ポケットに手を突っ込みながら続ける。

「俺? 昨日、ちょっと顔出して、今日また面接って感じ。今は体験中ってとこ」

金髪の男――カズは足を組みながら座り、昇大と龍斗を上から下まであからさまに見て、鼻で笑った。

「なんか、学生のバイトか? 夜の世界なめてね?」

「お前こそ、その金髪、キメすぎて逆に売れねえだろ」

龍斗が低く、淡々と返した。空気がピンと張り詰める。

「……やんのか?」

「はいはーい、喧嘩なら指名取り合ってからにしてくださーい!」

間に割って入ってきたのは、スーツの上からカーディガンを羽織ったような小柄な男――R-S店長だった。

「もう〜、若い子ってすーぐピリつくよね!はい、3人とも中入って中!」


ホストクラブ面接実態 そこは営業用のVIPルーム

面接室というよりは、営業用のVIPルーム。
ソファに3人が並んで座り、店長は真ん中のカウンター席に立っていた。

「じゃ、順番に聞くけど――なんでホストになりたいの?」

昇大は一瞬言葉に詰まったが、目をそらさずに言った。

「金が欲しい。でも……それだけじゃなくて、自分を変えたい」

「ふーん。で、そっちの弟くんは?」

「……兄貴の背中を押すため。あと、俺の目標もある」

「かっこいいこと言うじゃん」

「で、そこのキミ。金髪くんは?」

「俺? 女にモテたい。それだけ。指名取る自信あるし」

「おお〜わかりやすい!でもね〜……」

店長が急に真顔になった。

「“口”じゃ誰でも売れるって言うんだよ。問題は“続けられるか”どうか」

沈黙。
金髪は鼻で笑い、昇大と龍斗は黙ったまま拳を握った。

「ま、今日はこれでOK。結果は後日連絡するから、ちゃんと携帯出といてね〜」

店長が手を振るように言った。


店を出た後、階段を降りながら昇大が言った。

「……やっぱ怖えな、ホストの世界」

「でも、入らなきゃ見えねえ景色もあるだろ」

龍斗のその一言に、昇大は黙ってうなずいた。


次回予告(第4話)

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