
「ホスト 幹部 裏取引」――その言葉を、国見が初めて耳にしたのは営業後のバックヤードだった。
「国見、お前にいい話がある。」
そう低い声で近づいてきたのは、古参の幹部だった。
というのも、その目に“信頼”の色はなく、ただ無機質な打算だけが滲んでいたからだ。
話の内容は、ある意味で単純だった。
「次の昇格戦、リュウガに花を持たせろ。
その代わり、お前が負担してる売掛は帳消しにしてやる。」
つまり、“幹部補佐”という立場を守る代わりに、
派閥の道具になることを求められたのだ。
それは、かつてのような露骨な排除ではなかった。
むしろ、甘い誘惑へと形を変えた報復だった。
国見は返事をしなかった。
とはいえ、心の奥では確かに怒りと迷いが渦を巻いていた。
数字だけではない。
人間関係すら、こうして裏取引で操作される――
それが、ホストの現実だった。
忠誠を試される国見の決断
「どうするんだ?」
隣で書類を整理していたナオキが、小声で囁いた。
というのも、その声には“問い”以上のもの――
「選べよ」という促しがにじんでいたからだ。
国見はすぐに答えなかった。
というより、答えが出ていなかったのだ。
とはいえ、黙ってもいられない。
だからこそ、拳をゆっくりと握りしめながら言葉を探す。
「……俺は、誰のために立ってるんだ?」
それはナオキへの返答であると同時に、
自分自身への問いかけでもあった。
つまり今、彼は選ばされているのではなく――
自分で選ぶ時が来た、そう感じていた。
それは、まぎれもなく自分自身への問いかけでもあった。
というのも、派閥に与すれば“守られる”のは確かだった。
だが、その選択は――信じてくれる客や、新人たちを裏切ることにもなる。
つまり、“安全”と引き換えに、“信頼”を捨てることになるのだ。
幹部補佐という肩書きは、誇りであると同時に、重荷でもあった。
ふと視線を向けると、東條の影が、遠くの廊下に差していた。
というのも、その場には誰もいないはずだったからこそ、
その“存在感”は際立って見えたのだ。
言葉こそなかった。
とはいえ、その沈黙には、言葉以上のものが宿っていた。
つまり、東條は何も語らずに――背中を押していた。
「派閥に売られるな。信念で選べ。」
それは、誰かが発した声ではない。
だが、国見には確かに聞こえた気がした。
なぜか、胸の奥でその言葉が反響していた。
ホスト 幹部 裏取引に抗う姿勢
翌日のフロア。リュウガが派手にシャンパンタワーを演出する一方で、国見は静かに客の話を聞いていた。
「昨日のこと、誰にも言うなよ」
そう客に囁かれた一言が、妙に胸に残った。
彼が選ぶべきは派閥でも金でもない。
「俺は、信じて来てくれる人のためにホストをやる」
その意思を見せるかのように、国見は一人ひとりに誠実な接客を続けた。結果として派手な数字にはならなかったが、確かな“信頼”がそこに刻まれていた。
営業後、幹部会の資料に小さく赤字が残された。
──特記:裏取引に応じず。信頼評価+
つまり、その選択こそが真の“昇格審査”だったのだ。
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